味噌、醤油、納豆、日本酒。どれも、私たちの食卓になじみ深い発酵食品です。日本各地には、普段の食卓ではなかなか出会わない発酵食品もあります。
同じ魚や大豆を使っていても、土地が変われば、味も食べ方もまったく違う発酵食品になります。今では発酵食品とは思わない寿司も、ルーツをたどると実は発酵と深く関わっているのです。
この記事のポイント
- 日本には、味噌や納豆だけでなく、地域ならではの多彩な発酵食品がある
- 今の握り寿司は発酵食品ではないが、ルーツをたどると「なれずし」に行き着く
- 同じ日本でも、使う食材や微生物、食べ方の違いによって、地域ごとに異なる味が育ってきた
日本にはどんな発酵食品がある?
日本の発酵食品と聞くと、味噌や醤油、納豆を思い浮かべる人が多いかもしれません。各地に目を向けると、名前を聞いただけでは味を想像できないような発酵食品もたくさんあります。
魚をぬかに漬ける「へしこ」、塩を使わずにつくる漬物「すんき」、イカの内臓やイワシからつくる魚醤「いしる・いしり」。沖縄には、豆腐を発酵・熟成させた「豆腐よう」もあります。
| 種類 | 身近な発酵食品 | 地域ならではの発酵食品 |
|---|---|---|
| 調味料 | 味噌、醤油、酢 | しょっつる、いしる・いしり、かんずり |
| 豆・豆腐 | 納豆 | 浜納豆・寺納豆、豆腐よう |
| 野菜・漬物 | ぬか漬け | すんき、しば漬け、高菜漬け |
| 魚介 | 塩辛 | なれずし、飯寿司、へしこ、かぶら寿し、くさや、酒盗、本枯節 |
| 酒 | 日本酒 | – |
味噌汁や納豆のように毎日の食卓にあるものから、旅先で初めて名前を聞くような郷土食まで。同じ「発酵食品」でも、姿も味もずいぶん違います。さらに、今では発酵食品とは思わない料理にも、その名残があります。
寿司も、ルーツをたどれば発酵食品だった
今では、握り寿司を見て「発酵食品だ」と思う人はほとんどいないでしょう。ところが、そのルーツをたどると、今とはずいぶん違う寿司に行き着きます。
それが「なれずし」です。塩漬けした魚を米と一緒に漬け込み、発酵させて保存するもので、滋賀県のふなずしはその代表例。驚くのは、当時の米は魚を発酵させるために使うもので、食べずに取り除いていたことです。
やがて室町時代には、発酵させる期間を短くし、魚と米を一緒に食べる「生なれずし」が登場します。さらに酢を使って酸味をつける「早ずし」へと変わり、江戸時代後期には現在につながる握り寿司が広まりました。
魚を長く保存するための寿司から、魚と米を一緒に味わう寿司へ。私たちがよく知る寿司も、長い時間をかけて発酵から姿を変えてきた食べ物だったのです。
味噌も醤油も日本酒も。共通するのは「麹」
味噌、醤油、日本酒。味も使い方も違いますが、どれも「麹」が重要な役割を担っています。
麹は、米や麦、大豆などに麹菌を育てたもの。麹菌がつくる酵素の働きによって、原料から甘みやうま味が生まれます。いつもの味噌や醤油のおいしさにも、麹の働きが深く関わっています。
ただし、日本の発酵食品がすべて麹で作られるわけではありません。納豆では納豆菌、なれずしでは主に乳酸菌が働きます。使う食材や微生物が違うからこそ、日本各地にさまざまな発酵食品が生まれました。
北から南へ。地域でこんなに違う日本の発酵食品
北海道では魚と米を一緒に漬け、北陸では魚をぬかや麹と合わせる。東海では大豆から濃厚な味噌をつくり、沖縄では豆腐が珍味に変わります。
同じ日本の発酵食品なのに、土地が変わると味も食べ方も驚くほど違います。北から南へ、各地の味をたどってみましょう。
北海道|魚も米も野菜も一緒に味わう「飯寿司」
「寿司」と聞いて握り寿司を思い浮かべると、飯寿司はかなり意外な姿をしています。魚だけでなく、米や麹、野菜まで一緒に漬け込んで発酵させる、なれずしの仲間です。
使われる魚はニシン、サケ、ホッケ、ハタハタなどさまざま。米のほのかな甘みに発酵による酸味が重なり、魚によって脂のコクも変わります。北海道では寒い時期に仕込み、家庭ごとの味として受け継がれてきました。
魚、米、野菜を一緒に漬けて、そのまま一つの料理として味わう。握り寿司とはまったく違いますが、先ほど紹介した「なれずし」の文化が今も残る発酵食品です。
北陸|同じ魚でも、ここまで違う「へしこ」と「かぶら寿し」
同じ魚を使った発酵食品でも、北陸ではまったく違う味に出会えます。福井の「へしこ」と、石川・富山で親しまれる「かぶら寿し」です。
へしこは、サバなどを塩と米ぬかに漬けた発酵食品。塩気とうま味がぎゅっと詰まり、薄く切って炙ると、ご飯やお酒が欲しくなるような濃い味わいです。
一方のかぶら寿しは、かぶにブリなどの魚を挟み、米麹とともに漬けたもの。魚のうま味に、かぶの食感と麹のやわらかな甘みが重なります。
へしこは塩気のきいた濃い味、かぶら寿しは麹の甘みを感じるやさしい味わい。同じ北陸の魚の発酵食品でも、並べてみると驚くほど違います。食べ比べてみると、その土地ならではの発酵の面白さがもっとよく分かりそうです。
東海|味噌煮込みも味噌カツも。味の土台は「豆味噌」
味噌煮込みうどん、味噌おでん、味噌カツ。愛知を中心とした東海地方には、味噌を主役にした料理がたくさんあります。その味の土台になっているのが「豆味噌」です。
一般的な米味噌が米麹を使うのに対し、豆味噌は大豆に直接麹菌を育てた豆麹を使います。じっくり発酵・熟成させることで、濃厚なコクやうま味、独特の渋味が生まれます。
煮込んでも味わいを生かしやすい豆味噌は、うどん、おでん、とんかつなどさまざまな料理へ。一つの発酵調味料が、その土地らしい料理をいくつも生み出しているのが、東海の発酵文化の面白さです。
沖縄|豆腐が「東洋のチーズ」に変わる「豆腐よう」
沖縄の「豆腐よう」は、島豆腐を発酵・熟成させてつくる珍味です。もとの豆腐からは想像しにくいほど濃厚な味わいになり、「東洋のチーズ」と表現されることもあります。
つくるときに使われるのは、米麹と紅麹、そして沖縄の酒・泡盛。豆腐をそのまま食べるのとはまったく違い、少量ずつゆっくり味わうのが豆腐ようです。
豆腐に麹と泡盛を合わせると、ここまで違う食べ物になる。身近な大豆食品が、その土地ならではの発酵によって濃厚な珍味へ変わるのが、豆腐ようの面白さです。
なぜ、同じ日本なのに発酵食品はこんなに違う?
北海道の飯寿司、北陸のへしこやかぶら寿し、東海の豆味噌、沖縄の豆腐よう。ここまで見てくると、同じ「発酵食品」でも、使う食材も味も食べ方もまったく違うことが分かります。
その背景にあるのが、その土地で身近だった食材と、それをどう食べてきたかです。魚を米や野菜と一緒に味わう地域もあれば、ぬかに漬けて濃いうま味を引き出す地域もある。大豆は濃厚な味噌になり、沖縄では豆腐に麹と泡盛を合わせて珍味になりました。
気候や保存の必要性、受け継がれてきた発酵の技術も重なり、土地ごとに違う味が育ってきました。発酵食品を見ると、その土地で何を食べ、どんな味を好み、どう工夫してきたのかまで見えてきます。
知らない発酵食品に出会ったら、味わってみよう
味噌や納豆のようないつもの発酵食品も、飯寿司や豆腐ようのような初めて見る郷土食も、それぞれにその土地ならではの味があります。
旅行先や物産展で知らない発酵食品を見かけたら、「どんな味なんだろう」と手に取ってみるのも楽しみ方の一つです。その一口から、今まで知らなかった日本の発酵文化に出会えるかもしれません。
日本の発酵食品についてよくある質問
出典
・農林水産省ウェブサイト「aff(あふ)2022年11月号/日本の食文化に欠かせない『発酵』の世界」
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2211/spe1_01.html
・農林水産省ウェブサイト「うちの郷土料理/飯寿司 北海道」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/izushi_hokkaido.html
・農林水産省ウェブサイト「うちの郷土料理/へしこ 福井県」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/heshiko_fukui.html
・農林水産省ウェブサイト「にっぽん伝統食図鑑/かぶら寿し(かぶらずし)」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/traditional-foods/menu/kabura_zusi.html

